人魚の詩
事情
結局、先生と一緒に住んでるというのは事実らしいが実際のところ謎だらけだった。
「でもさ〜、苗字一緒だし血縁関係ってことだよな?」
「いやいや、貴弘。もしかしたら夫婦なのかも…」
「おいおいおい!勘弁しろよ…」
誠が貴弘をからかうのは相変わらずだが、
彼女の心配もしていた。
結局、女子たちは彼女に話しかけることはない。
男と話してることによって余計酷い目に合わないか心配して男子も話しかけることはない。
そんな中で、貴弘と誠だけが積極的に話しかけていた。
3時間目の政経の時間、隣で何やらごそごそやってる彼女に貴弘は疑問を持った。
「どーした?」
小さくそう問いかけてやれば、いつものようにめをまんまるくしてこちらを見る。
机の上に教科書が無いことに気づき、貴弘は机をくっつけた。
「忘れたんだろ?」
教科書を2つの机の境に置くと、小さな声ではっきりとありがとうと聞こえた。
授業が進められていく中、貴弘は焦っていた。
この心臓の音が聴こえてないだろうか…と。
「最近、大丈夫か?」
「え?」
「嫌なこととか、されてない?」
意を決して彼女に問いかけてみるが、返事がなかなか帰ってこない。心配になりのぞき込んでみると貴弘は驚愕した。
「あー…先生。なんか、高岡さん具合悪いみたいなんで保健室連れてきます。」
「あら。大丈夫?高岡さん。じゃあ、斎藤くんよろしくね。」
小さな背中を支えて教室を出ると
誠も気づいたようで、腹痛いからトイレ行ってきます!とか行ってついてきた。
開いていた理科室に入り鍵をかける。
「で…どうしたんだよチビ太。」
涙でぐちゃぐちゃになったその様子は見てて痛々しかった。
時計の音と風の音しか響かない理科室。
「何があったんだ〜?高岡さん?」
震えた声で、彼女は言った。
「私の教科書が、全部ないの。」
2人は顔を見合わせた。
ここまでやる奴がいるとは思わなかった。
「誰がやったかとか、心当たりない?」
「わかんない。」
「いつなくなったの?」
「体育から戻ってきたら無くなってたの。」
とにかく先生に伝えよう、と言った貴弘に
夏希は首を振った。
「恭ちゃんに心配掛けたくない。」
「恭ちゃん?」
「…たかおかせんせい」
貴弘は、ここで聞くのは不味いかと思ったけど
聞かずにはいられなかった。
「ごめん、嫌だったら答えなくていいんだけど…チビ太は先生とどういう関係?」
ぽつりぽつりと、小さな声が時計の音と共に響いた。