腹黒御曹司がイジワルです

初めて会ったとき、彼は転職の理由を目を輝かせて話してくれた。


「俺、別の食品会社の営業部にいたんだ。そこは新製品が出ればCMもバンバン流すし知名度は抜群だから、さほど苦労しなくても商品は売れていって、それなりに楽しかったんだけど――」


彼が口にしたのは、プレッスル食品の二倍ほどの規模を誇り、新製品が出れば必ずどこのスーパーでも取り扱うほど力のある会社だった。

ビールをゴクンと喉に送った彼は再び口を開く。


「それがつまらなくなったんだよね。自分の力を試したくて、ここに飛び込んだってわけ」


わざわざ規模の小さい会社に転職したと言う彼に驚いたけれど、同時にその話を聞いて、一気に虜になった。


「すごいですね。志が高い」

「そんなことないよ。自分の力で商品が売れていくのは、気持ちがいいものだ。それに、最終的に自分のスキルアップにつながる。今の苦労は未来への投資だよ」
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