憂鬱な午後にはラブロマンスを
一方、珠子は勢いで店を出たものの、会計もせずに郁美に悪い事をしたと思い携帯電話を取り出した。
そして、郁美に連絡しようとすると背後から郁美の声が聞こえて来た。
「ごめん、郁美。」
「薄情しなさいよ。どうして逃げたの?」
珠子は郁美が声をかけた男が自分の元夫だとは言えなく黙り込んでしまった。
「今日の珠子は変よ。」
「ごめん。」
冴えない表情の珠子に郁美は無理に聞きだせないと感じたのか少し溜息を吐いた。
郁美の溜め息が聞こえると珠子の肩がビクンと跳ねていたのを見て、何か相当な人には言えない悩みごとがあるのかと郁美なりに少し考えた。
「ごめんって、そればっかり。まあ、いいわ。今日は勘弁してあげる。」
「ありがとう、郁美。」
「その代り今日の埋め合わせしてもらうわよ?」
「分かってるわ。」
郁美は酔って知らん顔をしていたが、珠子の今日の様子がいつもと違うことに男絡みの何かがあると郁美はそう感じた。
昼間は社長、今の居酒屋の男、郁美は珠子が間違いなく何かを隠していると思えた。
「郁美…….この後飲み直す?」
「あー、何だか、もう酔いがさめちゃったわ。私帰るね。」
「うん、じゃあ気を付けてね。」
酔いがさめたと言う郁美だが、かなり日頃からお酒は強く飲む量が多い。なのに、今夜はまだ飲み始めでそれ程飲んでいたわけではない。
郁美はスキップするように軽やかな足取りで駅方面へと帰って行く。
珠子は空を見上げると近くのアパートへと歩いて帰る。