憂鬱な午後にはラブロマンスを
自宅アパートへ帰って来た珠子は台所へ直行しては流し台の上に伏せていたコップに水道水を注いで一気に飲んだ。
久しぶりに聞いた洋介の声に体が反応してしまい、未だに忘れていなかったことに珠子は戸惑っていた。
「こんなんじゃ社長の求婚を受けるのは無理よ。」
社長相手に愛情を感じたことは一度もなかった。それでも、社長室に二人っきりになり優しくされると心が揺れ動きそうになる。
珠子は一人暮らしを寂しく感じているのだろうかとふと思ってしまった。
珠子は茶の間の窓を開け外の新鮮な空気を吸った。
心地よい風が室内に入ってくる。
「一人暮らしにも慣れてしまったわ。」
今の精神状態で俊夫の求婚を受けることは無理だと感じ、出来れば早めに断ろうと決めた。
そうと決まると心が軽く感じたのか珠子は窓を閉め浴室へと行き風呂にお湯の蛇口を開いた。
「お風呂に入ったらもう寝よう。何だか今日は疲れた。」
その夜は早めにお風呂に入ると珠子は寝てしまった。
明日は良い日になりますようにと願掛けをしながら。
眠る珠子のベッドの宮には目覚まし時計と洋介と結婚した時の写真が置かれていた。
離婚した時、殆どのものを処分してしまったが、この写真だけは捨てられずに枕元に置いたままだ。
結婚当時は、二人の枕元にこの様に飾られていた。
けれど、今は珠子一人の枕元に寂しく飾られている。