憂鬱な午後にはラブロマンスを
それから数日後のこと。
社長の俊夫は忙しい日々を送っていたからか珠子へのアプローチは全くなかった。
求婚された日に食事をしようと誘われたものの、珠子は郁美と飲みに出かけ俊夫からの連絡を待つ気はなかった。
俊夫は食事をすっぽかされたと感じたからその後接触してこないのか、とも考えた。
何にしても珠子には有難かった。
俊夫と食事に出かけるつもりはなかったから。
しかし、ここまで何のアプローチもないと、社長室へ呼び出され求婚されたのが嘘のように感じる。
そんな頃だった、部長に異動があると話が広まったのが。
「珠子、今日のお昼に新しい部長が挨拶に出てくるんですってよ!」
「へぇ、そうなの。」
「何、その気のない返事は。興味ないの?やり手の営業マンよ。それも、若くてイケメンらしいわよ!」
「はいはい、私はね、今、この資料と格闘してるのよ。パソコンの関数のことで頭がいっぱいで新しい部長なんて興味ないわ!」
すると、さっきまで騒がしかった郁美がいきなり黙り込んでしまった。
そして、後ずさりをして珠子の机に寄りかかるとキーボードに手を置いてしまった。
「郁美! 手どかして! あー 狂っちゃうじゃないの!」
「た・・・たまこ・・・・」
「どうしてくれるのよ。画面がメチャメチャよ!いったい何の騒ぎなのよ?!」
珠子の後ろでは何やら急に騒めきだしていた。
鬱陶しいと感じた珠子が椅子を後ろへとずらすとそこには洋介の姿があった。
「なんで・・・・ここに?」
珠子はあまりの驚きに声にならなかった。