憂鬱な午後にはラブロマンスを
「あの、居酒屋でお会いしましたよね?!ね、ね、珠子も覚えているでしょう?!」
覚えているどころか珠子の元夫なのだ。
珠子は洋介の顔を見ると直ぐに椅子に座り直しパソコンの画面を見ていた。
「俺のせいで悪い事したかな?」
洋介は珠子のパソコンの画面を見ると机の上に置かれていた資料を手に取り画面と見比べていた。
直ぐ後ろに立つ洋介に珠子は心臓が爆発しそうな程にドキドキした。
洋介から香る匂いがとても懐かしく感じるとますます顔を上げれなくなった。
珠子が持つマウスに洋介は躊躇いもなく手を重ね、マウスをサッと動かし郁美がめちゃくちゃにした画面を元に戻した。
重なる指から洋介の体温を感じると珠子の手のひらに汗が滲んできた。
微かに震える珠子の手を周りに気づかれないように握りしめた洋介の指から、とくんとくんと脈を打つのが感じられた。
洋介の顔が珠子の顔に近づくと、指から珠子の緊張が伝わり洋介はマウスから手を離し珠子からも離れた。
「簡単な操作で戻せる。」
「あ、ありがとう。」
珠子はお礼を言うも洋介の顔を見れなく俯いたままだった。
そして、パソコン画面を見ている珠子に資料を返すと洋介は何事もなかったようにその場を離れた。
「遠藤さん、社長がお待ちです。ご案内します。」
相川主任が洋介を案内すると、その場にいた社員の視線が一斉に洋介の後を追う。