憂鬱な午後にはラブロマンスを
珠子は目を合わせるのも嫌なのだろうかと洋介は落ち込みより怒りの方が勝ってしまった。
しかし、別れた妻とは今は他人なのだから珠子の様に他人扱いするのが正当なのかもしれないと感じた洋介は寂しさが込み上げていた。
「別れたといっても俺達は一時は夫婦だったんだ。もう少し打ち解けた会話をしてもいいんじゃないのか?」
「これは仕事ですから。それに、私は部下でありあなたは私の上司です。」
あくまでも上司と部下の関係を貫こうとする珠子に苛立ちを覚えながらも洋介は珠子の言い分が正しいとも感じた。
「分かった。だけど、俺達の関係は終わっても過去は変えられない。俺達は夫婦でもあったんだ。今でも珠子に何かあれば手助けしたいと思っている。そんな気持ちは変わらないよ。」
「いいえ。別れてから一度も会っていなかったし、それに、お互いに再婚すればそれぞれの配偶者には嫌な想いをさせます。切れた縁は戻りません。」
珠子は洋介の再婚話しを居酒屋で聞いていたのだから、当然のように洋介は結婚していると思い込んでいた。だから、そんなセリフを言ったのだ。
洋介の左手薬指には新しくない指輪がはめられていた。しかし、それがどんな指輪か確認する勇気のなかった珠子は左手をじっくり見ることが出来なかった。
今度の結婚ではどんな指輪を奥さんに買ってやったのだろうか?と、珠子は心の中では指輪が気になっていた。
しかし、それを確認することで離婚の原因となったあの女を思い出すのは辛すぎた。