憂鬱な午後にはラブロマンスを
洋介は居酒屋での発言を思い出していた。
偶然にも同じ居酒屋で飲もうとしていた洋介と珠子。
まさか隣同士の席に座っているとも知らず、背中合わせに座わっていた珠子の存在を知らずに、逆ナンをしかけたと思い込んだ郁美の質問に牽制するつもりで言った会話を思い出していた。
『あら、指輪? 結婚してるの? もしかして連れって奥さん?』
『そうだけど?』
あの時の言葉を珠子が聞いていたのだとすれば、今の珠子のセリフに出た「お互いの配偶者」という言葉に納得がいく。
珠子は洋介は再婚し妻帯者になっていると誤解していた。そして、洋介もまた珠子が社長の俊夫と再婚を考えていると誤解していた。
お互いに相手がいるのだと誤解してしまっていた。
洋介は思わず社長からの呼び出しは何だったのかを問い詰めようかと思った。
上司ならば部下の呼び出しの理由を聞いても問題ないはずだと思った。
しかし、もし、それが個人的な呼び出しだと分かると洋介は黙って見過ごせるだろうかと心が落ち着かなかった。
結局は事を荒立たせずに珠子との関係を悪化させない方向へ運んだがいいのだと、今はそうすることが一番なのだと感じた。
「分かった。だけど、これから一緒に仕事をする仲間なのだからもう少し棘のない話し方を希望したい。」
珠子は洋介があっさりと引き下がった様に感じると驚いたような顔をして洋介の顔を見た。
その珠子の様子に洋介は笑みを見せ更にもう一部の資料を手渡した。