憂鬱な午後にはラブロマンスを
「遠藤さんはどなた?」
営業部に珍しい顔のお客さんが来たかと思えば、社長秘書の小田恵(おだ めぐみ)だ。
彼女は既婚者なのに美人なことで社内ではちょっとした有名人だ。男性社員の中には既婚者と知りつつも彼女に熱を上げる者もいる。
それに美人だけでなく様々な資格を取得していると噂に聞く。きっと、知的で有能な秘書なのだろう。
珠子は、美人で仕事が出来てしかも女性社員の中では花形の秘書なんて世の中不公平だと嫉妬しそうになる。
「私ですが、あの、社長秘書の小田さんですよね?」
「ええ、そうです。少々お時間頂けますか?」
「私は構いませんが・・・・その、部長が、」
今日は部長の機嫌が悪いのにここで持ち場を離れてはますます雷が落ちてきそうだと、珠子は恐る恐る部長の顔色を窺っていた。
すると、秘書の小田は珠子の顔を見るとにっこり笑って「大丈夫よ」とだけ言って小田について行くように説明した。
事前に部長には話を通していたのか、部長は珠子が持ち場を離れても何も言わず無言のまま仕事を続けていた。
少し違和感を感じた珠子は、社長秘書の小田に呼ばれるイコール社長からの呼び出しと考え、ない頭を捻らせこの呼び出しの意味を必死で考えた。
仕事で大きな失敗をすれば、まずは主任からのお小言があり次に部長からの雷が落ちるはず。それがないのは仕事以外の話があるのではないかと思った。
「あの、社長からの呼び出しですか?」
「ええ、そうよ。」
秘書は相変わらず営業スマイルのような微笑みを珠子へ向けていた。