憂鬱な午後にはラブロマンスを
俊夫は運転席の後ろの仕切り版を上げて二人だけの空間を作っていた。その空間が珠子を余計に緊張させていた。それが、狙い目なのか俊夫は緊張で体が硬直する珠子を見て「可愛いね」と囁くように言う。
「あの、この車はどこへ向かっているのでしょうか?」
「食事をするレストランのあるホテルだよ。」
「社長、ですが」
珠子が更に言葉を続けようとすると俊夫が珠子の唇に人差し指を当てて言葉を塞ぐと顔を近づけた。珠子の頬と俊夫の頬が触れるかと思うほどに顔が近づくと珠子の心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
思わず後ろへと体を動かし俊夫との距離を取ろうとすると、それに合わせたかのように俊夫の体も前方へと動きさっきよりは逆に体が密接しそうなくらい近づいた。
「とても美味しいレストランでね。君も気に入ってくれると思うよ。」
「でも、この恰好では社長に恥をかかせてしまいます。」
「いや。十分に素敵な格好だと思うよ。」
珠子の頬に俊夫の指先が触れると自分の方へと引き寄せて珠子の頬を自分の頬にくっつけた。まるで子供に頬擦りするように珠子の頬にもそんな頬擦りをした。その頬がとても温かく嫌ではなかった珠子の顔は綺麗なピンク色に染まっていた。