憂鬱な午後にはラブロマンスを

「可愛いね。食べてしまいたいくらいに。」


俊夫の言葉に珠子は体が少し震えてしまった。珠子はバツイチなのだから男性経験がないわけではない。だから、俊夫が何を求めているのか察しはつく。

しかし、珠子は俊夫とそんな関係になりたい気持ちなど持っていなかった。なのに、のこのこ俊夫の車に乗ってついてきてしまった。

まして俊夫は珠子にプロポーズをしていて返事を待っている相手なのだ。そんな男性と二人っきりになりホテルでディナーをするのは、それ以上の関係も含まれる可能性があるのにと珠子は今更ながらディナーへ来たことを後悔した。

そんな珠子の気持ちが手に取るように分かっているように俊夫は珠子の頬から手を離すと体も離し後部座席の端っこの方へと身を寄せた。


「あの・・・」


俊夫の意外な行動に珠子は驚いていた。
男は気に入った女を無理にでも抱きしめキスをするものだと思っていた。以前結婚していた時の洋介がそうだった。

若さも手伝ってか洋介は珠子を見るなり抱きしめてはキスをしていた。それが、ベッドでなくとも。他に誰もいないと分かっていれば玄関先ででも珠子は洋介に抱かれていた。
珠子はそんな昔のことを思い出していた。


「私はね君と結婚したいと思っている男だよ。君が嫌うことをしたいとは思っていないんだよ。」


囁く様に優しく言う俊夫の表情もとても優しいものを感じるが、それでも珠子にはそれが本当の内面からの優しさなのか単なる独占欲なのか判断がつかなかった。

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