憂鬱な午後にはラブロマンスを

夜も更けていくと会社の窓の明かりが次々と消えていく中、まだ、営業部のフロアだけが下ろされたブラインドから光が外へ漏れていた。


「部長、まだ帰られないんですか?」

「いや、これだけ目を通したら帰るつもりだよ。」

「そうですか。私はお先に失礼させて頂きます。」

「仕事が終わったら遠慮なく退社してもらって良いんだよ。」


課長らは仕事を終えると次々に退社していった。洋介はそんな彼らの後姿を眺めながら珠子が退社するときの姿を思い浮かべていた。

あの時、社長の俊夫がここへ現れたのは珠子を迎えに来ていたのだと思った。

そして珠子と二人で夜の街へ出掛けたと思うと、洋介は気分が落ち着かなく仕事が捗らなかった。

だから、こんな時間になってもまだ会社に残って仕事をする羽目になっているのだと溜息が止まらなかった。

今日、珠子が社長に呼び出されたのは今夜のデートの申し込みだったのだろうと一人そんなことを考えていると、洋介の頭の中は珠子一色になり仕事の手が完全に止まっていた。


「もっと残業させるべきだった」


何時間粘って仕事をしたところで珠子が頭から消えないことには仕事は捗らない。それだったらいつまでも会社で仕事をしていても意味はないと洋介は退社してしまった。

会社から出た洋介は夜空を眺めていた。


「アイツもこの綺麗な夜空をどこかで見ているのかな?」


夜も更けていくのにビジネス街の夜空はまだ明るい。そして駅へ向かう歩道の先に見える歓楽街はこれからが夜の始まりの様に眩しい光に包まれていた。
洋介には晴れた空に光り輝く星の美しさがよく見えていた。珠子と一緒に暮らしていた頃もこんな夜空を一緒に眺めながらキスしていたものだと昔を懐かしんで見ていた。

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