憂鬱な午後にはラブロマンスを
豪華なホテルの豪華な個室で目の前に並べられた見たこともないご馳走に珠子は目を奪われてしまった。
しかし、それ以上に窓の外に見える高層ビル群の煌びやかな光と吸いこまれそうな空の暗闇に目が移ってしまう。
「どうしたんだい? 食事が口にあわなかった?」
「え? いいえ。とても美味しいです。」
「外になにか気になるものでもあったのかな?」
珠子は個室の大きな窓から見える壮大な景色に見とれていた。それはビルが並ぶ街並みではなくその遥頭上に光り輝く美しい星を見ていたのだ。
「ホテルの最上階からの眺めは最高に美しい。私もここはお気に入りなんだよ。」
「まるでここだけ別世界みたいに綺麗な夜空だわ。」
珠子はこんな美しい星空を見たのは何時振りだろうかと考えてしまった。思い出すのは昔洋介と一緒に暮らしていた時、二人がまだ幸せだった時に一緒に星空を眺めながら抱き合ったりキスしたりしていたのを思い出していた。
あの頃がとても懐かしいと感じながら美しい星空から目を離せなかった。
「見てるのかしら?」
こんな美しい星空を洋介は見ているのだろうかと珠子はそんな事を考えてしまった。
心ここに在らずという表情をしている珠子に声を掛けようとした俊夫だったが何も言わずに食事を続けていた。
珠子が次にどんな表情を見せてくれるのかを眺めていた俊夫だったが、少しだけ珠子の口元が笑ったのに気付いた。