憂鬱な午後にはラブロマンスを
テーブルの上に置いた珠子の手に、俊夫は自らの手を重ねては握り締めた。
珠子は突然温かいものが手に被さると驚いて咄嗟に手を引っ込めてしまった。
自分の膝上に手を置いて初めて温かいものが俊夫の手だと気付き珠子は気まずそうな顔をして俊夫の顔色を窺った。
「あ、ごめんなさい。驚いてしまって。」
「何を考えていたんだい? 何か物思いに耽っていたような顔をしていたよ。」
俊夫のセリフに珠子は洋介のことを考えていたとは言えずに愛想笑いをした。
そして、フォークを持つと肉に突き刺した。
「美味しそうな料理だと思って目が離せなくて」
明らかに嘘を言っていると分かる俊夫だが深く追求するつもりはなかった。
なんと言っても元夫だった男が同じ会社へ入社したのだ。それも、同じ営業部の部長なのだから珠子が動揺していても不思議ではないし、頭から離れられない存在だったとしても仕方のない事だと思った。
但し、頭から離れないと言ってもそれは愛情ではなく離婚した時のマイナスな気持ちだと信じていたかった。