憂鬱な午後にはラブロマンスを
洋介が打ち合わせと言ったのは珠子を連れ出す為の口実に過ぎなかった。
珠子を先に会議室へと入れると洋介はドアを閉めて鍵をかけた。そして珠子の傍まで行くと肩に手をかけた。
「珠子、夕べは何があった?」
本気で心配しているような顔をみせる洋介に思わず話しそうになった珠子だが口をつぐんでしまった。
洋介は離婚した夫で今は何の関係もないのだからと。だから、俊夫からの求婚をどうすればいいのか洋介に相談など出来なかった。それどころか、洋介に知られたくない気持ちの方が強かった。
「手を離して」
「珠子が泣いた翌日は腫れた目を隠すのに厚化粧をするだろう。この唇の膨らみもそうだ。眠っている間中、唇を噛んでいたからだろう?」
「それは、部長には関係ありません。」
珠子は洋介に昨夜の話をしたいとは思っていない。昨夜は俊夫と二人っきりで食事をしても洋介が頭から離れず最悪なデートだった。
昨夜は写真を抱き締めて眠ったとは死んでも洋介には言えないことだ。
「社長に何かされたのか?昨日社長と一緒だったんだろう?」
「社長は優しいわ。酷いことする人じゃないわ。」
社長の話をする珠子の表情は冴えない。社長との時間が素晴らしいものであればそんな顔をするはずはないと洋介は眉間にシワを寄せた。
「社長と結婚するつもりなのか?」
洋介の思いがけない言葉に驚きを隠せなかった。珠子は俊夫にプロポーズされたと誰にも話したことはない。
プロポーズしたのはこの会社のトップの社長なのだ。簡単に人の耳に入れられるものではない。