憂鬱な午後にはラブロマンスを
「分かった」
洋介はそれ以上何も言わずに会議室の鍵を開けるとドアを開けた。
ドアが開いたのを確認した珠子は資料を持って会議室を出て行こうとした。
ドアのところから動かなかった洋介だが、横目で洋介の顔を見ながら部屋を出て行く珠子を引き留めようと、思わず珠子の腕を掴んでしまった。
「珠子」
「もう構わないで」
「社長のことはもう言わない。だけど、今のままでは仕事にならない。業務終了後にもう少しパソコンが使える様に特訓する。」
「そんなことしなくてもいいわ」
「これは部長命令だ。仕事だ。」
部長命令と言われ断ることなど珠子には出来ない。しかも、それが仕事と言われれば尚更のことだ。
珠子は仕方なく頷くと自分のデスクへと戻って行った。
珠子は今夜も俊夫に食事に誘われていた。
今の会話の様子では俊夫との食事デートは無理の様に感じた。営業部へ戻る前に珠子は携帯電話を取り出し俊夫に連絡を入れた。今日も洋介と残業があるから、と。
そして、その日も遅くまで営業部は賑わっていた。
しかし、営業部とは言え、流石に就業時間が過ぎていくと社員達は少しずつ退社していく。
家に妻や子供達が夫や父親の帰りを待っているだろうし、恋人とのデートを予定している者もいるだろう。疲れを癒すためにと早々に帰宅する者もいるだろう。
時間が遅くなればなる程に社員達はいそいそと帰って行く。
そんな中、珠子も洋介も家に待っている家族はいなく、帰宅しても一人だ。そんな二人は急いで帰る必要もなく仕事に集中していた。