憂鬱な午後にはラブロマンスを
洋介が珠子の背後からパソコンの画面を覗きこもうとすると、反射的に珠子は画面を隠そうとした。珠子は、また、操作ミスをしていたのだ。
「何故、自力で出来ないなら俺に助けを求めない?」
「自分で対処できると思ったからです。」
「それで何倍も時間をかけて作るのか?時間の無駄だ。これは遊びじゃないんだ。それに、パソコン操作が仕事でもない。あくまでもパソコンは道具に過ぎないんだ。その道具を使えないで仕事になるものか。」
冷たい口調の洋介に珠子は拳を握りしめていた。その拳が少し震えているのに気付いた洋介は珠子の背中を軽く叩いた。
珠子はポンポンと叩かれると重々しかった心が軽くなった気がして洋介を見た。
「一人じゃない。俺がいるんだ。」
「ありがと」
本当は「俺を信じて」と言いたかった。しかし、洋介を信じられなくなったから離婚を突きつけられた過去がある。
だから、洋介はまた珠子に拒絶されるのが怖くてその言葉が言えなかった。
「今の余計な操作を一旦取り消して元に戻して」
パソコンは間違った操作を戻しやり直すことができる。やり直しは一度だけでなく何度でも可能だ。
だけど人の場合はそんな簡単に戻せないし、過ちを取り消すこともやり直すことも出来ない。
起きたことは事実として残る。過去を変えることは出来ない。