憂鬱な午後にはラブロマンスを
洋介も珠子もパソコンの様に自分たちの結婚も人生ももう一度やり直しが出来ればとそう願うばかりだった。
溜息を吐く洋介と同時に珠子も溜息を吐いていた。
「俺の真似をするなよ」
二人同時に同じ溜息を吐いたものだから、バツが悪いと思ったのか横柄な態度を取ってしまった洋介。すると珠子も負じと偉そうに腕を組んで洋介を見上げていた。
「なによ、そっちが真似たんじゃないの。私の方が早かったわよ。」
珠子の偉そうな態度にカチンときた洋介。だけど、こんな言い合いさえも懐かしさを覚えて嬉しくなる。
「俺が先だ」
「私よ」
「・・・ったく、変わってないよな。お前は。」
「洋介だって・・・変わってないわよ。」
つい懐かしさが二人の何気ない会話を楽しくした。
そして離婚後、珠子の口から初めて洋介と言う言葉を聞いた。これまで離婚した後は一度も会うことはなかった。だから離れている間は、当たり前だが会話をすることはなかった。
洋介がこの会社へ入社してからは仕事上必要最低限の話しかせず、呼ぶ際も「部長」とは言っても「洋介」と言ったことはなかった。
久しぶりに名前を言われたことだけで洋介はかなり嬉しかった。それだけで心が弾んでしまった。
「珠子も変わってないよ」
優しく囁かれるような心地よい声に珠子は昔に戻った気になった。
だけど、そんな洋介の左手薬指の指輪が照明の光を浴びてキラリと光ると珠子の顔から笑みは消えてしまった。
洋介が昔と変わっていないのはその笑顔だけ。でも、その笑顔は偽りの笑顔だ。本当に心から優しい笑顔を見せるのは指輪の相手だけ。
珠子は洋介と離婚していたことを思い出した。