憂鬱な午後にはラブロマンスを
何故離婚してしまったのだろうかと今更ながら後悔した。
この優しい声は、昔は自分のものだった。でも、今はもう他の女のものだ。
ほんの少し優しく囁かれるだけで蕩けてしまいそうになるこの声が欲しいとは言えない。今更、この声で目覚めたいとは言えない。 洋介には新しい生活があるのだから。
「だから、こうなるだろ? 分かるか?」
「ありがとう。後は自分でやってみるわ。理屈が分かったから少し出来る気がする。」
珠子がミスをしたパソコンの表作成について洋介は丁寧に分かりやすく説明していた。苦手な珠子が少しでもパソコン操作になれる様にと特訓ついでの業務だ。何度失敗しても根気強く付き合う洋介に珠子は心が浮かれてしまいそうになる。
「それが出来たら声を掛けてくれ。俺は社長に資料を提出してくる。」
「え・・・ええ」
洋介はデスクから資料を取ると珠子にそれを軽く掲げて見せていた。「これだよ」と言わんばかりのその瞳も昔と同じ懐かしい瞳。とても優しい瞳で珠子を包み込むようだ。
珠子はどう反応していいのか考えてしまうが、ここは以前のように自然に振る舞いたいと思って、昔を思い出したように軽く手を振っていた。
こんなやり取りを昔は良くやっていたと思っていると作業していた手が止まる。
そして、目に涙が溢れそうになるのを必死に堪えていた。
他にもまだ数人の社員が残っているのだから気付かれない様に注意しなければと、珠子は両手で頬を叩いて作業に集中した。