憂鬱な午後にはラブロマンスを
一方、洋介は社長室へこれまでの営業成績をデータ化したものを提出していた。
それを見ていた社長の俊夫は数字から目が離せなかった。
「確かに右肩上がりだが君が言ったように緩やかだな。もう少し角度があってもよさそうなのに。」
頭を捻りながら必死に数字を拾って行く俊夫は、真剣な目をして洋介が持ってきた資料を見つめていた。
「これまでの部長は数字を出すのにちょっとした目の錯覚を利用して利益の推移を誤魔化してたようですね。」
「彼は信用ある人物だと思って任せていたのが間違いだった。」
「ですが、社長は今の状況は理解されていたんですよね?」
「まあな。一応、利益は上がっている。今のところ特別な問題はなさそうだから暫くは泳がすつもりでいた。経理課や担当会計士からも報告は上がっていたんだ。俺が見逃すはずなはいだろう。」
二人して資料の数字を見ていたが、俊夫はデスクに資料を置くと洋介の方へと目を移した。
洋介もまた俊夫の顔を見たが、その目は仕事を語る目ではなくもっと別の熱い瞳をしていた。そんな顔をされると俊夫は珠子の話を持ち出したくなる。
もう離婚したのだから珠子を束縛するのは止めろと。
「君に来て貰って正解だったようだ。感謝しているよ。」
俊夫からは普通のボスとしての言葉をもらっていた。それはどこへ行っても同じもの。だから、洋介もそのつもりで会話を交わしていた。
しかし、洋介を見る俊夫の瞳は憎き敵でも見ているかのような熱い目をしていた。