憂鬱な午後にはラブロマンスを
珠子の緊張が社長に伝わったからか、社長は微笑みながら珠子の傍へと近づいてきた。
「自己紹介は必要かな? 社長の池田俊夫(いけだ としお)だ。年齢は35歳、独身で只今彼女募集中と言えばいいのかな?」
フレンドリーな俊夫に珠子は思わず笑ってしまった。けれど、俊夫に続いて珠子も自己紹介をすべきかと思い同じように自分の紹介をした。
「私は営業部の遠藤珠子です。26才です。一応、独身ですが現在は恋人募集はしていません。」
珠子の自己紹介に俊夫は笑っていたが、俊夫の目は笑っていなかった。
珠子は何故俊夫がこんな自己紹介をしたのか理解出来なかったが、まずは緊張している珠子をリラックスさせるためにしたことだと思った。
「ソファにかけて」
俊夫に言われ応接セットの三人掛け用のソファに腰かけると、珠子の座る隣へと俊夫は腰を下ろした。
いきなり真横にしかも社長の俊夫の顔が目の前まで近づくと、驚いた珠子は思わずソファから立ち上がろうとした。
俊夫はそんな珠子の腕を掴んだ。
「このまま座ってくれないか?」
社長である俊夫にそう言われれば嫌とは言えないのが雇われている社員の定めだ。
仕方なく珠子がソファに腰かけると、珠子の顔の直ぐ近くに俊夫の顔があることにますます緊張していた。
「あの、お話とはなんなのでしょうか?」
あまり良い話には思えなかった珠子は早く用を済ませ自分のデスクへ戻りたかった。