憂鬱な午後にはラブロマンスを
珠子は事情を説明し人事部長から洋介へ確認の電話を入れてもらうことにした。
珠子は離婚後、洋介との関わりを全て断ち切る為に携帯電話を新しいものに替えていた。そして、それまでの連絡先も全て消去していた為、洋介の連絡先を知らない珠子は電話一つ自分ではかけることができず人事部長の手を借りるしかなかった。
「変だな、留守電になっている。携帯電話も出ないなぁ。」
「外回りをするとは聞いていないわ。変だわ。」
これまでこんな経験のない珠子は少し動揺していた。洋介は仕事に対して無責任な行動を取らない。それを一番よく知る珠子は洋介に何かあったのではないかと何か胸騒ぎがして落ち着かない。
「少し様子を見てはどうですか?」
人事部長は他人事だからそんな呑気なセリフが言えるのだと珠子は苛ついてしまった。ここは洋介の姿を見るまでは安心できないと人事部長を睨みつけた。
鋭い目に部長は思わず怯んでしまうと数歩後ずさりをしてしまった。
「自宅住所を教えて下さい。様子を見て来ます。胸騒ぎがするんです。」
「しかしだね、個人情報を教える訳には。」
珠子は自分が別れた元妻だとは言えずどうしたものか悩んだ。洋介が公表しない以上、自ら他人に言えず珠子は口を噤んでしまった。
「もしかしたら遅刻なのかも知れませんよ。少し待っていてはどうですか?」
「ダメです! 彼は時間に煩い人で仕事がなにより大事な人なんです。そんな彼が連絡もなく遅刻するはずはありません! 連絡先を教えてくれないなら社長に直談判します!」
「え?あ、それは困るよ!」
人事部長から脅し半分で住所を聞きだした珠子は急いで会社を出て行った。