憂鬱な午後にはラブロマンスを
抱きしめられる洋介の腕を外し気付かれない様にゆっくりとベッドから下りようとした。すると、しっかりと腕は珠子の体を抱きしめた。その腕にますます力が入ると珠子を離しそうになかった。
無意識の内に昔を思い出してこんなことをしているのだろうと思っていた珠子に洋介が弱々しい声で話しかけた。
「ごめん、珠子が嫌なのは分かっているけど、少しこのままで居てくれないか?」
これまでに感じた事の無い声で頼まれると嫌とは言えなくなる。一度は愛した人だ。それに、未だに忘れることの出来ない人でもある。
「卑怯よ」
「ああ、なんとでも言ってくれ。珠子とこうして居たいんだ。」
洋介の言葉はまるで蜜の様な甘い言葉だ。それも蕩けるほどに甘い蜜。そんな甘い蜜に珠子が抗えるはずがないのだ。
それに、そんな言葉がなくとも洋介が求めてくれるのなら喜んで受け入れると珠子は大声で叫びたくなった。
だけど、これは熱で判断能力に欠けたからこんな状況にあるのであり、もし、高熱を出していなく倒れてもいなければ洋介はこんな風に求めることもしなかっただろう。
そう考えると珠子はやりきれない思いに涙を流しそうになった。
洋介はまた眠ったようで珠子を抱きしめる腕の力が緩んでしまった。
本当ならば洋介のベッドから抜け出ることは簡単なはずなのに、珠子は洋介とこんな風に過ごしたかったとその場から離れることが出来なかった。
もっと洋介の熱を感じていたくて、洋介の温かさも胸の大きさも逞しさも感じたくてベッドから出ることが出来なかった。