憂鬱な午後にはラブロマンスを
珠子の看病の甲斐もあり洋介はあっという間に回復し体調も元に戻った。
会社を数日休んだものの、また、以前と変わりない元気良さで出勤して来た。
営業部の社員達は倒れたと聞かされていただけに、この数日だけで復活してきた洋介を見てゴジラだの妖怪だのと好き勝手なことを言い始めた。
「部長、奥さんがいるのに遠藤さんを独り占めして叱られませんでした?」
「あ、もしかして、遠藤さんって部長夫婦の家政婦代わりに扱き使われていたんでしょ?」
何も知らない他の社員に詳しい話を聞かせるつもりのなかった珠子は皆の話に合わせるのがベストだと思うと、にっこり笑って頷きながら答えた。
「そうなのよ。部長夫婦ってば似た者夫婦なのよ。私を家政婦扱いするんだから。」
「やっぱりね。最悪だよ。」
「それで、部長の奥さんってどんな人だった? やっぱり部長と同じ様な厳しい人なのかな?」
まさかそんな質問が飛んでくるとは予想していなかった珠子は言葉に詰まってしまった。調子づいて嘘など吐くものじゃなかったと今更ながら困った。
「え?・・・あ、その」
珠子は洋介が一人暮らしをしていたとは今更言えず、しかも、結婚していると言う洋介の部屋には妻がいた形跡がなかった。
それをどう言う意味なのか、珠子でさえ理解できない事を、社員に対してどう説明していいのかを悩んでしまう珠子だった。
「俺の妻はとても優しくて気の利く人だよ。それに、とても可愛くてね。片時も離したくない人だよ。」
本当に妻を愛しているのか、妻を語る洋介はとても優しい笑顔をしていた。