憂鬱な午後にはラブロマンスを
洋介の優しい笑顔にその場にいた女子社員らは顔を赤めて洋介を見ていた。
妻帯者だと言うのに洋介は相変わらず人気者のようで未だに妻の座を狙っている女子社員もいる。
「今度の社員旅行には奥さん連れて来ないんですか?」
「え?」
洋介に熱い視線を送る女子社員らが今度行われる社員旅行の話を洋介に振った。いきなりの旅行話に意味が分からない洋介は戸惑いで顔が強張ってしまった。
「部長クラスになると奥さんも同伴される方が多いんですよ。」
「いや、ウチのはこういうのは苦手なんだよ。」
洋介の妻が社員旅行へ来る?
そう考えると珠子は急に洋介の妻に嫉妬しそうになった。
そして、今、その妻と顔を合わせれば自分が何を言うのか自信がなかった。
もし、今の洋介の妻が、あの時の浮気の相手だとすれば、きっと珠子はその妻を罵倒してしまうだろう。
もしかしたら、取っ組み合いの喧嘩をしてしまうかも知れない。
そんな事を考えていると背後の方から珠子を呼ぶ郁美の声がした。
「珠子、小田さんがお呼びよ。」
営業部に再三現れる社長秘書の小田がまたもやこの日もやって来た。
洋介が久しぶりに出社したその日に珠子は俊夫に呼び出されてしまった。
営業部へとやって来た小田を睨む様に見ていた洋介は口を噤むと椅子に腰かけた。
「ありがとう、郁美。」
「ねえ、社長秘書の小田さんと何かあるの?」
社長秘書からの呼び出しに周囲の社員達も興味深々のようだ。
それもそのはず、これで呼び出されたのは何回目なのか両手で数え切れないほどの呼び出しになっていた。