憂鬱な午後にはラブロマンスを
その夜、俊夫のプロポーズも手伝って仕事が捗らず残業していた珠子だが、郁美に「気分転換は大事よ」と誘われると仕事を早めに切り上げ居酒屋へと足を運んだ。


「元気ないね。何かあったの?」

「うん、ちょっとね・・・」


俊夫からの求婚にどうしたものかと珠子は悩んだ。

結婚する気がないのだからその旨を伝えれば終わる話だ。

だが、俊夫のノーと言う返事を受け付けない様子に珠子は返事が出来なくなっていた。


「社長に呼び出されたのと関係ある?」


ビールを片手に枝豆を摘まむ姿の郁美はまるで晩酌する親父のように見える。

珠子はそんな郁美の飲みっぷりを楽しみながらチビチビと梅酒を飲んでいた。


「それにしても、あっちの座敷は煩いわね。盛り上がり過ぎなんじゃないの?」

「ここは居酒屋よ。騒いで当然よ。」

「それに比べ、こっちのテーブルは皆静かに飲んでるのね。あら、珠子の後ろって男一人じゃん。」


郁美はアルコールがかなり回ったのか珠子の後ろのテーブルの男に目を付けた様だ。

一人寂しく飲んでいる様に感じた郁美はさっそく隣のテーブルへとお邪魔をしに行く。


「郁美、よしないさいよ!」


珠子が止めても酔いのまわる郁美は男の元へと一直線。


「ねえ、そこの色男さん、一人で飲んでるの?」

「連れがもうすぐ来る予定なんだ。」

「あら、指輪? 結婚してるの? もしかして連れって奥さん?」

「そうだけど?」


珠子の背後から冷たい物言いの声が聞こえてくるが、どことなく聞き覚えのある声だった。

その声に懐かしさも感じた珠子は誰だろうと思い振り返ってみると、そこには会いたくもなかった元夫の遠藤洋介がそこにいた。
< 8 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop