憂鬱な午後にはラブロマンスを
珠子は元夫の洋介とこんな場所で会うとは思いもよらなくかなり動揺していた。
それに、郁美との会話では洋介は既に再婚し奥さんがいると言うのだ。
その妻と待ち合わせて今から飲むというのだ。珠子は隣り合った席で仲睦まじい元夫の姿など見たくなかった。
「郁美、ごめん。私、先に帰るね。」
洋介もまた珠子の声に、自分の後ろにまさか別れた元妻がいたとは思わなく驚いていた。
珠子は洋介の顔を見ることなく慌ててその場から逃げる様に出て行く。
そんな珠子に驚いた郁美は急いで荷物を持つと会計へと急いだ。
「あ、ちょっと! 君!」
珠子と一緒に飲みに来ていた郁美を呼び止めようとした洋介だったが、会計を済ませた郁美は珠子の後を追って店から出て行った。
店に取り残された洋介だが、待ち合わせていた同僚らが店へと入って来たことで、郁美を追うことが出来なくなった。
「悪い、悪い。すっかり遅くなったよ。今日は洋介の送別会だと言うのに。」
「いや、いいんだ。急に転職することになって皆には迷惑をかけてしまうな。」
「ヘッドハンティングだろ? それだけお前の才能を期待してのことなんだ。俺達も期待しているぞ。」
「そう言えば、さっき店を出て行った女は良い女だったな。知り合いか?」
店を出てしまった珠子と郁美を惜しむ様な目で見ていた同僚らから目線を外すと洋介はメニューを手に取り言葉を濁していた。
「いや・・・・」
「お前の新しい勤務先はあのイケダだろ? 若くてピチピチした女がたんまりいるだろうな。」
メニューをテーブルへ置くと洋介は、冷水を一気に飲み壁にもたれ掛かり少し考え込んでいた。
左手薬指にはめている指輪を見ながら。