恋愛議事録
「どうせ私は可愛くないわよ」
解体した鶏肉をジッと見つめたままポツリと呟くのを、タコわさを注文しつつ耳が拾う。
性格の話?と聞いた俺の皿から食べようかとしていた唐揚げが消えた。
隣を見やれば、同期が睨みつけながら口一杯に唐揚げ頬張り、俺の言葉に抗議するように口を尖らせている。

正直、変顔を超えて不細工の域だ。

「なんで性格なのよ!!アンタ本当に私の話聞いてた?!」
「遂に本橋の本性に気付いちゃった?」
唐揚げを飲み込んで抗議した同期が今度は言葉を飲み込む。
「良い方にフォローするのも大事だけどさ、時と場合と相手見ねーと。使われるのはオマエだぜ?」
「見る目なくて悪かったわね!!」
俯いたまま吐き捨てると、半分以下になっていた甘ったるいカクテルを同期は一気に煽った。
「あっ、大場、おまっ何して!!」
「うるさい!!」
飲み終わったグラスを俺の目の前にズイと突きつけ、おかわり!!と言い放つ言葉尻が少し震えている。

 小柄でいかにもカワイイ女子だと顔面に書いてそうな本橋が、先輩先輩と大場の後ろをチョロチョロしてるのは
知っていた。職場でも妹ポジションだった大場にとっては嬉しくて仕方ないんだろうなと空気だけでわかる。
 そこに付けこんで楽な仕事ばかり掻っ攫って行く本橋の評判はすこぶる悪い。が、そんな悪評を耳にすると、自分の指導が悪いからではと気にして余計なミスを連発しまくった結果、俺が飲みと言うタオルをリングに投げ入れざるを得なくなったのだ。
 俯いた大場からグラスを受け取ると、目の前で焼き鳥を焼いていた店員にお冷を1つ頼んで小さく鼻を啜る大場の頭を一撫でした。

 サラサラで柔らかそうだと思っていたゆるくパーマのかかったダークブラウンの髪は思った以上に柔らかかった。
 その髪を梳いてかき上げて、耳朶を甘噛みしてやりたい。
 
 なんて俺が思ってるなんて考えもしてないだろうなとぼんやり思いながら、タコわさとお冷を受け取る。
目の前のお冷よりも俺が頼んだタコわさをチビチビ食べながら、ポツポツと大場は愚痴をこぼす。

 知ってるよ、おまえが男見る目無い事ぐらい。
 見知らぬ年上のグラマラスなお姉様に「私の男に手を出すな」って休日の午前中に突然家に乗りこまれて、やや遅れて現れた彼氏が「コイツとはホントに友達だから!!」ってお姉様に向かって言ったんだろ?
 そうだよな、と目を見開いて無言の圧力をかけてくる彼氏イヤ男の迫力に負けて友達デスと言ってしまったと、
その後着拒にラインのブロックと連絡を一切取れなくなってワケ分かんないうちに別れたっぽいとワンワン泣きながら電話してきたのはおまえだろうが。
< 2 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop