恋愛議事録
 ペットボトルを呷り、冷えた水を一口含む。
 かすかに開いたその柔らかそうな唇に唇を合わせ、少し温くなった水をゆっくり流し込む。
水で少し冷やされた唇がすぐに熱さを取り戻す。思った通りの柔らかさを堪能して、ゆっくり唇を離した。
 正気に戻った酔っ払いが驚いたように目を瞠っている。
「何て顔してんだ、酔っぱらいが」
 口紅だかグロスだかが落ちた水で潤んだ唇を親指でなぞる。

 なんで、と小さく震える声に、水飲むって言ったのお前だろ、と耳元で答える。
もちろん意図的に低い声で。そのまま耳朶を食むと、面白いくらいにピクリと体が反応した。

 真っ赤な顔と潤んだ目を見下ろす。何て顔してんだ、ほんとに。
「大概お前も鈍いよな」
喉で笑う俺を、なんでよ、何がよと一生懸命怖い顔を作って抗議する柔らかい存在を片腕に抱いて、俺の頭の中は全く別の事を考える。


 とりあえず、引かれる程寝室は散らかってねーな。

 
 飲みかけのペットボトルをテーブルに置いて、とりあえず掴まれと声を掛けて、そのまま抱き上げる。
誰だ、お姫様抱っこなんてネーミングつけて、やって当然みたいな風潮作ったのは。
しがないフツーのリーマンには結構酷だよ、ちきしょうめ!
 
 「まぁアレだ、積もる話はベッドでしようか、由香里。」
 驚き過ぎて固まった顔が見れた分、柄にもない事した甲斐はあったか?
ニッと笑って、派手な抗議の声を聞く前にサッサと寝室へ足を向ける。
謀ったワケじゃないが明日はちょうど休みだし。


さぁ、ゆっくりじっくり、イイ声で話してもらおうか。

< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop