HAL─
潮風の香る街に─



「もしもーし」

「お、やっと出たな。今、千鶴と寮の前にいんだけどさ……、お前が部屋にいないって聞いた。何処にいんだよ。」

「あー……、コレがヒント。」


耳に張り付けていたスマホを強く握り直し、そのまま右手を前へと突き出す。俺の目の前に広がるのは、生憎(あいにく)の曇り空とどこまでも伸びる水平線。

寄せては返す波飛沫は穏やかとは程遠く、頬を撫でる潮風も荒々しい。

それでも、この街に再び来る事が出来た喜びに俺の胸は今、高鳴っている。

湿気混じりな砂地に腰を下ろし、ソッと目を閉じてみた。頭に浮かぶのはあの子の笑い顔。

つられて俺もにやけそうになったその時、携帯電話の向こうから雄也の怒鳴るような声が聞こえた。過去から現在にタイムスリップ。


俺は再びスマホを耳にあてた。






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