女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
2、再会と再発
4月の暇で暇な売り場で、私は売り上げノートをつける。
どこの売り場も暇で、午前11時、デパ地下は閑散としていた。今日の売り上げ目標の数字は高く、私はうんざりして周囲を見回す。
これでどうしろっていうの?どっから売り上げ取れって言うのよ・・・。
そもそも販売に必要な客がいねーだろ、と呟いていたら、隣の店の田中さんが近寄って話しかけてきた。
「小川さん、ダンナさん残念だったわね、異動になっちゃって」
私はノートを閉じて体を隣の店へむける。
「まあ、同じ百貨店の中ですから。そこはラッキーでした」
私の言葉にうんうんと頷いて、田中さんは笑顔で続けた。
「今日の朝礼での挨拶格好よかったじゃない。結婚してから桑谷さん男っぷりがますます上がったわよ~!髪を切って爽やかにもなったしね~」
ベラベラと喋っている。私はそれを苦笑して眺めていた。
今朝、異動する人たちの挨拶が朝礼を割いてあったのだ。普通はそういうのは終礼でするものなのだが、食品の部長の都合で今朝に回されたと言っていた。
彼のほかに3人ほどが並び順番に異動先とこれまでのお礼を述べる。
私が偶然早番で朝礼に出ていたものだから、集まった販売員がちらちらと見てきて鬱陶しかった。
あれがダンナでこっちが妻、とか思ってるんだろう。
去年からいる販売員は、うちの売り場の斜め前の売り場にいた守口斎が私の元彼だと知っているので、どういう経緯で鮮魚の桑谷と付き合うようになり、結婚までいったのかとよく聞かれたものだった。
ほっとけってーの。