女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
肩をすくめて答えた。
「このイカレたバカ女が私に暴言を吐き、階段から突き落とそうとしたからよ。運が悪かったら下まで転がり落ちてたわ」
桑谷さんがひゅっと眉を上げた。
「階段は無事だったようだな。・・・暴言?」
私はわなわなと震える玉置を目を細めて見詰めながら、さらりと言った。
「私のことを腹ボテ女と呼んだのよ。私だけでなく、子供までバカにされたわ。口で言っても判らないだろうから、行動で不快感を表明したのよ」
桑谷さんは一瞬目を細めて私をじっと見詰めたけど、すぐに玉置に向き直った。
「妻はそう言ってるけど、本当なのか?」
彼の低い声の中に何かを感じ取った。それは私だけじゃなかったらしく、玉置は怯えた顔でちらりと彼を見上げた。一歩後ろに下がる。
「わっ・・・私は・・・」
「俺の」
彼の声が更に低くなった。
「妻と子供をバカにした挙句、階段から突き落とそうと?」
玉置は桑谷さんから目を逸らした。体が震えている。それを見ていたら、私の中でマグマみたいに煮え立っていた怒りがさめていくのを感じた。
彼は静かな声だった。目も別に睨んでいたわけではなかった。だけど、迫力が半端なかった。体が2倍にも3倍にも大きくなって見えた。
言葉を失った玉置に、彼がゆっくりと言う。
「・・・彼女のロッカーに嫌がらせをしたのは君だと判っている。それに、なぜ君がこんなバカなことをするのかも判ったと思う」
私は顔を上げて桑谷さんを見詰めた。