女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 ・・・・何だって?何が判ったって?

 既に体を完全に彼女に向けて、私には後ろ姿を見せている彼は続けて言った。

「吉田と話した。あんた、妊娠したと言っては男を脅し、金を取っていたらしいな。子供をおろすのに必要だと」

 私は呆気に取られる。・・・え!?今、何て言った?金を取る?どの男から?そして少し考えて、やっと、玉置の別れた夫が吉田さんだったと思い出した。

 桑谷さんは続けている。彼の呼びかけが、君からあんたに変わった。それだけで、更に言葉の冷気が増した。

「だけど、若い時の派手な遊びで中絶を繰り返し、藪医者に引っかかって堕胎の手術に失敗し、もう妊娠出来ない体になっていると。それが判っていて浮気をし、相手を脅して金を取るとは・・・あんた、その顔で結構やるんだな」

 玉置は怒った顔のまま固まっていた。口元が不自然にいがんでいて、私がビンタした両頬が腫れてきている。

「吉田はそれが原因で離婚したと言っていた。自分と幸せな結婚生活を送れば、浮気癖も治ると思ったと。だけど蓋をあけてみたら、妻は浮気を繰り返し、挙句の果てにゆすりまでしていたと判って嫌気がさしたんだと」

 ・・・・なんて女だ。私はじっくりと、目の前にたつ、小柄な女を見る。今では別嬪さんだとは到底思えない顔をしていた。目は釣りあがって顔は青ざめ、般若のようだった。

「自業自得とは言え、女性が妊娠出来ない体になるというのはかなりの衝撃と悲しみなんだろう。その点には同情する。しかし、だからと言って、他人の幸せをぶち壊しにするのが生きがいだとは、感心しないな」


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