女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
・・・感心しない、なんてレベルじゃねーよ。何て迷惑な。
桑谷さんが身を屈めて玉置の耳元に顔を近づけた。いつもより数段階低い声で、ゆっくりと言う。
「・・・バカなことはもう止めとけ。でなければ、全部バラすぞ」
びくっと彼女の体が震えた。
ゆっくりと顔を上げて彼を見る。
桑谷さんは屈めていた身を起こして、普通の声で淡々と言った。
「そうなれば、あんた、終わりだ」
彼女は震える声で瞳を開いて、キッと向き直った。
「・・・わ・・・私を、ゆ、ゆする、気?」
桑谷さんは笑う。くっくっくと小さな声が私の耳に届く。
「いいや、まさか。黙っといてやるよ、俺には関係ない。あんたからの金など要らない。ただし―――――」
彼は声から笑いを消して、少し首を傾げた。
「―――――またこんなことがあれば、話は別だ」
玉置は震えていた。見開いていた目を一度ぐっと閉じて、小さく息を吐き出した。
そして消えそうな声で言う。
「・・・・判ったわ。私の負けね。もう、何もしないわ」
そしてくるりと体を返し、ヒール音を立てながらドアをあけて出て行った。
私はそれをじっと見ていた。悲しい女の退散をじっと見ていた。