女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 ・・・感心しない、なんてレベルじゃねーよ。何て迷惑な。

 桑谷さんが身を屈めて玉置の耳元に顔を近づけた。いつもより数段階低い声で、ゆっくりと言う。


「・・・バカなことはもう止めとけ。でなければ、全部バラすぞ」


 びくっと彼女の体が震えた。

 ゆっくりと顔を上げて彼を見る。

 桑谷さんは屈めていた身を起こして、普通の声で淡々と言った。

「そうなれば、あんた、終わりだ」

 彼女は震える声で瞳を開いて、キッと向き直った。

「・・・わ・・・私を、ゆ、ゆする、気?」

 桑谷さんは笑う。くっくっくと小さな声が私の耳に届く。

「いいや、まさか。黙っといてやるよ、俺には関係ない。あんたからの金など要らない。ただし―――――」

 彼は声から笑いを消して、少し首を傾げた。

「―――――またこんなことがあれば、話は別だ」


 玉置は震えていた。見開いていた目を一度ぐっと閉じて、小さく息を吐き出した。

 そして消えそうな声で言う。

「・・・・判ったわ。私の負けね。もう、何もしないわ」

 そしてくるりと体を返し、ヒール音を立てながらドアをあけて出て行った。

 私はそれをじっと見ていた。悲しい女の退散をじっと見ていた。



< 112 / 136 >

この作品をシェア

pagetop