女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「・・・さて」
桑谷さんの声に、ハッとした。そして腕時計を見る。もう売り場に入る時間が迫ってきていた。
「・・・やばい!!遅刻になる!」
私が駆け出そうとしたのと同時に彼に腕を捕まれた。私はイライラと夫を振り返る。
「ちょっと放してよ!あのバカ女のせいで時間食っちゃって、もう勤務時間なんだから!」
桑谷さんは迫力を増したままで、私の言葉は無視して淡々と聞いた。
「その前に、ハッキリさせて行ってくれ。今ここで起こったことに何か間違いはないのか?」
「あん?無いわよ!それよりも、時間が―――――」
「全部、何一つ、小さな欠片も、間違いない?」
私は捕まれた腕をまた振りほどいた。そして彼に噛み付く。
「ないって言ってるでしょ!?」
彼は真面目な顔になった。そして目を細めて、ゆっくりと口を開いた。
「・・・ってことは、君は妊娠してるのか?」
私は目をぐるんと回す。・・・・ああ、畜生。一番面倒臭いバレ方だ。イライラと私は鞄をかき回す。そして黄色い手帳を掴みだして、彼の顔面に突き出した。
「そうよ!今妊娠4ヶ月になったところ!とにかく遅刻寸前だから、私は行くわ。説教もお仕置きもなしよ!妊婦は大事にされるべき存在なんだから!」
そしてその場に彼を置いてけぼりにして、ドアを開けて階段から飛び出し、エレベーターを捕まえて、地下に降りた。
後のことは考えなかった。
考えたくなかった。
あーあ・・・。全く、何て告知の仕方だよ!!