女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
2、桑谷彰人の奮闘
何とか遅刻もせずにヨロヨロと売り場について、呆然としながら休憩までを過ごした。
そしてだんだん痛みだした玉置にぶたれた場所が熱を持っているのが判った。
・・・畜生、あのクソ女。もっと殴ってやればよかった。でも桑谷さんの邪魔・・・いやいや、助けがなければ、今頃は母子共に大変なことになっていたかもしれない・・・。
私のお腹の子供も、よくよく生命力が強いらしい。それは、素晴らしい。
お昼ごはんを食べて、万が一桑谷さんと出くわすと面倒臭いと思って早々に売り場へ戻り、よく考えたら夫にはバレたんだ、と思って、売り場の口止めを解いた。
「今まで黙ってて頂いてありがとうございました」
本日のパートナーである、大野さんに頭を下げる。
彼女はいえいえ、と笑って、いたずらっ子みたいな顔して言った。
「桑谷さんに話したのね?」
私はいや、それが、と顔の前で手を振る。
「バレちゃったんです。だから、もういっか、と思って」
ヤツの前で母子手帳を落としてしまったってことにしておいた。
「あらあら・・・まあでも、流石に5ヶ月にはお腹も出てくるから、早晩言わなきゃならなかったでしょうけどね。周りにも告知するほうが、危なくないしね」
「はい、そうですね」
もう大っぴらに話せるからと、育児の大先輩である大野さんに色々を質問をしたりして、その日を過ごす。
きっと明後日にはまた全員が私の妊娠を知っているんだろうなあ、と思いながら閉店作業をした。