女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


「・・・知らねえぞ、そんなこと」

「言ったの、ちゃんと」

 彼は本気で考えこんだようだった。眉間に皺を寄せて、宙を睨んでいる。

「・・・・いつ」

「私を迎えに来て、無茶苦茶にした夜・・・でなしに、その明け方」

 彼は目を閉じて深いため息をついた。

「その時、俺寝てなかった?」

 素直に頷く。ま、確かに熟睡中ではあったしな。

「寝てた」

「・・・そりゃ無理だろ。聞こえてない」

 話している間に家についた。


 玄関に入った時に、そうだ、と思い出してこれだけは、と口を開く。

「今日、どうしてあんなにタイミングよく北階段にいたの?」

 桑谷さんはドアに鍵をかけながらさらりと答えた。

「玉置をつけていたから」

「え、そうなんだ」

 靴を脱ぎながら話す。苦笑していた。

「彼女から目を離さないって言っただろ?同じ3階で、売り場が近いから出来たんだけど。接客してて、振り返ったら玉置が消えてて焦ったんだ。文具に聞くとゴミ出しに行ったって言うから、急いで1階に行ったけど、いない。エレベーターは一機も動いてない。なら、階段しかない。俺は―――――」

 にっこりと笑った。

「君が北階段を使うのを知っている。だから、念のためにと昇ったんだ」


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