女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
第5章 誕生
1、あの海へ
予想した通りに、百貨店では洋菓子の小川が妊娠したとの噂が凄いスピードで広がった。
そんな面白い情報を何で早く教えてくれないんだ、と福田店長はメーカーの人間に言われまくったらしい。私だけが知っていたのよ~と自慢したわ、と手を叩いて喜んでいた。
・・・そんなこと、自慢になりませんから。
そして水面下では、桑谷家に生まれる子の性別を賭けて金銭が動いたらしいと、情報通の隣の店の田中さんが言っていた。だから、私に最初に教えてね!そっちの方に賭けるから!とお目目をキラキラさせて言っていた。
あはははと笑いながら、絶対に、教えないぞ、と私は心に誓った。実際に医者にも性別が判れば聞きたいですか?と聞かれ、断った。
男でも女でも、この子はこの子だ。生まれてきたら、その時の楽しみに取っておきたい。彼もそれでいいと言っていた。両実家は、それぞれがそれぞれに楽しみに待っているらしい。
よく彼のお母さんのところに行って、色んなことを話したし、実家との電話の回数も増えた。
子供が出来るということの影響力を、私は初めて知ったのだ。
それは、驚くべきことだった。色んなことが、色んな方面で。
8月に入り、百貨店は夏の大繁忙期を迎える。
だけどパートになっていた私は納品を免除して貰い、遅番を基本に出勤もセーブしていたので体が疲れることはなく、繁忙期の雰囲気を楽しんだ。
制服が入らなくなり、新しい社員さんが売り場に来て引継ぎをし、そして、私が退職する日が来た。