女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「男の子なら?」
「・・・日本人の名前がいい」
「うん?平蔵とか、そんなの?」
「何で鬼平犯科帳なんだ?」
・・・おお、知ってたのか、桑谷さん。池波正太郎さんのあの素晴らしいシリーズを。読まなさそうなのにな。
「お父さん、何て名前だったの?」
「俺の?―――――和人」
かずひと、ふーん、やっぱり桑谷さんの名前は、父と同じようにとつけたんだな。かずひとで、あきひと。
「ちなみにおじいちゃんは?」
少しだけ考えて、確か、と口を開く。
「・・・隆人・・・だった、と思う。あんまり記憶にない」
たかひと、かずひと、あきひと、かあ・・・。ならやっぱりそれに繋げるべき?
私の考えが読めたようで、彼は顔を顰めた。
「同じようなの考えてるだろ。縁起がよくねえぞ。あいつらは早死で、しかも自殺者だからな」
私はぺろりと舌を出した。
「だから、歴史を変えたらいいじゃない。あなたと子供で」
ふん、とそっぽを向いた。
風が通って、夕焼けが段々力を失っていく。私はまだ砂を触りながら、また口を開く。
「じゃあ女の子は?」
「ゆり」
「え?」
彼はにやりと笑って言う。