女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「恋愛ジャンキーが何かなの、彼女?」
私の言葉に少しだけ笑った。
「・・・自分になびかない男がいるってことに我慢ならなかったんだろうと思う。玉置さんは美人だし、4年前はもっと綺麗だった。社員の間でも有名で、あっちこっちで名前を聞いた」
その場合の名前ってのは、浮名ってことだろうな。私はぽりぽりと頬を指でかいた。
「よくダンナさん我慢出来たわね」
「出来なかったから離婚したんだろうな」
ほお、成る程。それは頷ける。
「俺の異動が決まったとき、ホッとしたのは事実だ。玉置さんから逃げ回るのに疲れてもいたし。それがこの異動でこっちへ来るって聞いたけど、もう4年も前の話だし、会った時も普通だったから・・・まさか、地下に喧嘩売りに行くとは」
私は裸のままでベッドを抜け出して、テキパキと部屋着を着た。とろけていた両足を叱咤して真っ直ぐに立つ。
「・・・・寝ないのか?」
彼が私を目で追いながらそう聞く。
「目が覚めちゃった。月見するの。いいから、寝てください」
返事も待たずに寝室を出て、ぺたぺたと足音を立てながら台所に行く。
お茶を出してコップに注ぎ、電気もつけずに縁側に行った。ガラス戸を通して月明かりの下庭を見る。
流石に外に出るのは寒いので、廊下にあぐらをかいて座り、お茶を飲んだ。
・・・・宜しくね、と言った彼女の声を思い出した。
デパ地下と3階はほとんど出会いなんてないぞ、一体何を宜しくされたんだろう、私は。下手したら一度も会わずに済む他の階の人間に挨拶されてもどうしようもないしな・・・。