女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
しかし、桑谷さんが逃げ回るなんて珍しい。
彼は何事にもハッキリと対処しているし、迷惑なら迷惑だと突っぱねそうなのに。
と、そこまで考えて、ああ、そうか、とようやく思い当たった。
最初に彼女の話題を出したのは店食だ。
あの時に、そのまま続くかと思った話題を彼が黙殺で止めたのだった。それを私は変に思って、その感触が残ってるのか。違和感の正体はその時の彼の態度だ。
・・・話題にしたくない人だった、んだろう。
ってことは・・・ってこと、は。
「何も無いはずがない」
低い呟きになってもれてしまった。その自分の言葉にハッとする。思わず片手で口元を押さえた。
彼に聞こえたとは思わないけど、やつは油断ならない男なのだ。
壁に耳あり障子に目ありを地でいくというか。
お茶を飲み干して音をたてないように床へ置く。
まだ寒い夜、私は月の少しの灯りで白く光る木蓮の花をみていた。
・・・・面倒くせー。
それが正直な感想だ。
ああ・・・面倒臭い。何か、こういうの久しぶり。大学のときにつるんでいた友達の楠本がいい男過ぎて数々の女難に巻き込まれ、私もその余波を受けたものだったけれど、それを思い出した。
誤解した女達と、誤解はしてないけれどヤツの傍にいることがムカつくって理由で私に様々な攻撃をかましたバカ女達を。
うわあ~・・・玉置さんがそれほどバカじゃありませんように。