女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
移動ばかりだったし、大体いつでも家に居なかった母親に母の日のプレゼントを渡したことなんてない。だからそんなこと考えたこともなかった。
うちの母はいつでも、また生きて娘に会えることを最大の楽しみだと公言していたのだ。そして、戦地へカメラを抱えて行ってしまう。
客もいなくてやっぱり暇だったので、竹中さん相手に一日考えて、結局花と茶菓子を持っていくことにした。
またお母さんとお茶しようっと。
すでに出ている5月のシフト表を眺め、義理の母親を訪ねる日も決めた。
そしてまた襲ってきた頭痛と戦いながらその日を過ごす。本日のシフトでは私は遅番で、竹中さんが上がってから売り上げも少しは伸び、私は気分もそんなに悪くはない状態で店を閉めた。
方々に挨拶しながらロッカールームに上がる。
今日は彼が休みで私が出勤なので、帰ったら晩ご飯も出来てるはず。帰って晩ご飯があるって幸せ~などと思いながら自分のロッカーまで来て、ちょうど顔を上げた玉置さんと目があった。
「あら、小川さん。今あがり?」
「・・・はい、お疲れ様です」
ありゃあ~・・・と心の中で悲しむ。知らなかった・・・ロッカー近かったんだ・・・。
左右にずらりと並ぶ縦長のロッカーの、通路に置いたベンチを挟んですぐの場所が玉置さんの使用ロッカーだった。
・・・くそ。出来れば顔をみたくない人が。
私は曖昧な笑みを浮かべたままロッカーをあける。
彼女は今日も綺麗で色っぽく、砂色のスーツに身を包んでドアにつけた鏡で化粧を直しているところだった。