女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 えええー!??・・・だって、だって、妊娠って・・・。いや、そりゃあ身に覚えは山ほどあるけれど、あれかなこれかなと選べるほどには沢山あるんだけれど、でも!ちょっと待って最後の生理っていつだっけ?

 目の前でいきなりバタバタと右往左往しだした私を見て、お母さんが落ち着いた声で、まあまあ、と手を振る。

「生理は来てるの?」

「いや・・・えーっと・・・ええ!?」

「はい、まりさん落ち着いて。でもそれだけ慌てるってことは、絶対ないとは言えないわけよね」

 お母さん!冷静に分析してる場合じゃないっすよ!!しかも若干恥ずかしいお言葉です!!

 私はお茶を一気飲みした。

 そして深呼吸をした後、ゆっくりと口に出す。

「・・・私は元々生理も不順なんです。来たり来なかったりだし、生理痛もないから来るまで支度も出来なくて、ナプキンを買いに走るとか普通です」

 お母さんは静かに頷いた。

「あまり期待するなってことなのね。判りました、もう口には出さないわ」

 この理解力と先読みの深さ。彼はきっとお母さん似だろうと思う。先に若くして自殺してしまったお父さんがどんな方かは一生わからないだろうけど。

 でも・・・。

 彼は34歳で、お母さんもそれなりのお歳。音信不通な息子が呪いの33歳を越えて、やっと未来に希望が沸いたところ。そしたらある日嫁を連れてきた。

 嬉しかったというあの言葉に嘘はないだろうけど、それでも複雑だったことには違いない。もっと息子と一緒にいたかったとも思っていただろう。やっと顔を見せた息子は嫁にかかりっきりで。

 きっと、ずっと、寂しかったんだろう。


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