女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
・・・またお前か。
正直な所うんざりしたけど、それは隠して私も笑顔で会釈する。
「おはようございます」
早番では会わなかったのにな。何でだろ・・・。彼から仕入れた情報で、出勤時間も違ってて喜んだばかりなのにな。ってか、私服のスーツで仕事なんだからロッカーにそんなに用はないでしょうが、早く出て行け、と心の中で呪いながら私は自分のロッカーを開けた。
その途端、奇妙なものが目に入る。
「うわっ・・・!」
つい叫んで後ろに飛びのいた。
私のロッカーの中、店内で履いている黒いローファーに被さって無残にねじれて転がっているのは、ネズミだった。ミミズのような長い尻尾が目に入る。
ザアっと血の気が引く音を聞いた。
「―――――――どうしたの?・・・・あら、まあ」
後ろから玉置さんが覗き込んで、パッと口元を手で押さえた。同じく異変に気付いた周囲からも悲鳴が上がる。
「・・・どうしてこんなところに」
私の呟きに、本当ね、と応えて、美しい眉を顰めて玉置さんが聞く。
「―――――・・・死んでるわね。小川さん、ロッカーの中に、食べ物とか入れていたの?」
正視に堪えなくて、私は可哀想な生き物から目を逸らす。
「・・・入れてません。地下ですらあまり滅多に見ないのに、どうしてロッカーになんか・・・」
そして、なぜ私のロッカーなのだ。
あああー・・・気分悪い。深呼吸しよ。
「とにかく、このままにはしておけないわよね」
ネズミが(しかもお亡くなりあそばしたのが)大丈夫らしい玉置さんは、自分の鞄からティッシュを出してそれを包み込んだ。