女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
彼は今日早番で出勤だ。だから夜も7時には帰ってくる。そしたらまた詳細を教えて貰おうっと。
縁側に座って足をおろし、ぶらぶらと揺らす。
そして、色んな知り合いがいる彼がどこからか連れて来た男性が作ってくれた庭を眺める。私の好きな植物を植え、手入れ方法を教えてくれたその人は、別に庭師ではないと言っていた。
履歴書を書かせたら前職の欄に警備会社と調査会社が並ぶ変わった経歴の桑谷さんは、私が変な顔をして一体あの人どこから連れてきたの?と聞くのを楽しそうに笑いながらかわしていた。
「じゃ、桑谷さん、いつかまた」
手をあげてそう言いさっさと消えてしまったその男性が、結局どういう人だったのかはまだ私は知らない。最後まで名前すらも聞かなかった。
植樹もしてもらってるのにお金も取らなかったのだ。
私の好きな、白木蓮がちょうど咲き、毎日私はここで観賞している。この次は牡丹も咲く。そして新緑の紅葉。
嬉しい。
子供の頃から移動ばかりの生活をしていたし、大人になってからはアパートで一人暮らしだった。だから家を買って庭を造るというのは心の中の深い深い場所に存在した夢だったのだ。
愛する男性と結婚し、家を持ち、庭がある。
私はふんわりと微笑んだ。
素晴らしい。私は、全部を手に入れている。