女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
しかも、自分のお腹の中に子供がいるかもしれないと思っていて、その理由だけに、何であっても死骸ってだけで拒否反応が出てしまう。
アクション映画ですら殺される悪役を見て、彼にも母親がいて、色んなことがある人生を一所懸命生きてきたんだろうなあとか考えてしまい、今までみたいな爽快感を感じたり出来ないのだ。
「・・・畜生」
えぐい仕返しだ。これが彼女の仕業だとしたら、マジでえぐい。今の私にはキツイ。
そしてゆっくりと思い出した。
彼女、ネズミの時も大して嫌そうではなくティッシュで包んでいた。私も周囲もそれに驚いたんだった。
・・・自分でやったのなら、出来るだろうよ、それも。
ふつふつと怒りが沸いてくるのを感じた。
あのアマ。ここで私にバカにされた仕返しがこれだとしたら、呆れるほどの陰険さだ。
もう休憩時間は残っていないはずだった。
私は深呼吸をして落ち着く努力をすると、立ち上がってロッカーを閉めた。暗証番号も設定を変える。これが防御になるかは判らない。だけど、やれることはしておかねば。
あーあ、と眉間の皺を指で伸ばす。まったく、どうしてこんなことに。私は今それどころじゃないってーの。
アンタに構ってる暇なんかないんだよって怒鳴りに3階の文具まで行きたいぜ。
玉置の、あの綺麗な顔を張り倒したい。そうすればさぞかし――――――
歩きながら無意識のうちに指を鳴らしてしまった。
証拠を掴まなければ。まずは、それだ。そしてあのバカ女の首をしめたい。
残りの勤務時間を、私は頭の中で彼女をボコボコにする想像をして楽しく過ごした。