女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 口元を緩ませて、彼が呟いた。

「・・・まったく、敵わねえよな・・・」

 私の腰に手を回して引き寄せた。そして微かに首を傾げて言う。

「・・・君のエプロン姿、見たことないんだけど」

「ないでしょうね、着たことないもの」

 ・・・何だ?どうしていきなりエプロンなのよ。

「しねーの、エプロン?」

 私は唇までのギリギリの距離を保ったまま聞く。

「それって必要?」

 彼は口の端をきゅっとあげて笑った。子供みたいな無邪気なその笑顔は、たまにいきなり出現する。

「台所のエプロン姿が、新妻って感じがするんだ」

 ・・・おやまあ、それはえらく可愛らしい新妻の定義だこと。

 私は心の中で笑う。エプロンにおたまを片手に持って微笑んでる私なんて、ちゃんちゃら可笑しくて笑っちゃうってもんである。ついでに頭には黄色のターバンでもまいとく?って。

 私に似合うのは――――――

「エプロン、着てもいいけれど、その下は多分裸よ」

 彼はひゅっと眉をあげて、そのあと笑顔を苦笑に変えた。

「・・・まったく、何てこと言うんだ」

「問題が?」

「いいや。もの凄く、君らしい」

 そして笑いながら私をきつく抱きしめて言った。買いに行かないとな、エプロン、って。

 大きな手を自分のお尻に感じながら私も笑う。

 誘惑なんて、本当、簡単だわ。


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