女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
時間を確認すると、私の意識は一瞬ハッとした。
あああ~・・・・そろそろ桑谷さんが帰ってくるころだ・・・。忘れてた。多分、きっと、噂話について持ち出されるだろう。
うーん・・・ここはまだ不味くならないビールを一本だけ飲んどく?いっとく?許してくれる、ハニー?お腹をさする。
色々頭の中で言い訳をして、結局ビールは一本あけ、私は彼の帰宅に備えた。
そして、15分後。ガラガラとドアが開く音がした。
夫の帰宅だ。
私は意識的に呼吸をゆっくりとして、彼を迎えに立ち上がる。
「お帰り」
声をかけると玄関で靴を脱いでいた彼が振り返った。
「ただいま」
私の耳はちゃんと捉えた。桑谷さんの声がいつもより低くなっている。ひょうきんさの欠片もなし。・・・・やっぱり、聞いたんだな、あれ。
知らないふりで見上げる。
「どうしたの、機嫌悪い?」
桑谷さんはじっと私をみて、何もいわずに横を通り抜けた。
晩ご飯を出し、テレビをつけて私もテーブルにつく。ビール飲む?と聞くと要らないと返事が返って来た。
私は自分の分にと冷たい牛乳をグラスに入れる。
「お風呂、沸いてるよー」
「うん」
彼はいつものペースでガツガツと晩ご飯を食べる。尋問はなしかな?と思って、ちょっと肩の力をぬくと、彼の低い声が聞こえてきた。
「ご馳走様」
「え、もう食べたの?」