女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 驚いて振り返ると、テレビを消して、真面目な顔した彼と目が合った。

「―――――今日、聞いた」

「うん?」

 私は首を傾げる。実際は、ドクンと心臓が鳴った。牛乳のグラスを持って椅子に座る。

「・・・・君は色んな嫌がらせを受けてるらしいな」

 無表情の桑谷さんからは、冷気が漂うようだった。

「まあね」

「俺、聞いてねえぞ」

 やっぱり。私はため息をついた。こう予想通りだと笑っちゃう。一語一句まで想像と同じじゃないの。たまには違う反応してみせろっつーの。

「・・・ネズミの話はしたでしょ?」

「他のは?」

「家に帰ったらやることも一杯だし、忘れちゃってたのよ」

 彼は黒目を細めた。迫力が増したまま座ってこっちを見ている。

「食堂で聞いてビックリした。お前の嫁さん大変らしいぞ、だと。何でそれを4階の子供服から聞かなきゃなんねーんだ。自分の妻からではなく」

 ぶつぶつと苦情を言っている。鮮魚のアルバイトにまで言われたぞ、と機嫌悪そうに言う。

「あなたに言ったって、好転するわけじゃあないでしょう?」

 私の言い方に更にムカついたようだった。

「犯人は判ったのか?自分で対処出来るなら――――」

「やったのは玉置さんよ」

 ぴたりと彼が口を閉じた。目を開いている。驚いた顔で止まり、その後で怪訝な顔をした。


< 61 / 136 >

この作品をシェア

pagetop