女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
驚いて振り返ると、テレビを消して、真面目な顔した彼と目が合った。
「―――――今日、聞いた」
「うん?」
私は首を傾げる。実際は、ドクンと心臓が鳴った。牛乳のグラスを持って椅子に座る。
「・・・・君は色んな嫌がらせを受けてるらしいな」
無表情の桑谷さんからは、冷気が漂うようだった。
「まあね」
「俺、聞いてねえぞ」
やっぱり。私はため息をついた。こう予想通りだと笑っちゃう。一語一句まで想像と同じじゃないの。たまには違う反応してみせろっつーの。
「・・・ネズミの話はしたでしょ?」
「他のは?」
「家に帰ったらやることも一杯だし、忘れちゃってたのよ」
彼は黒目を細めた。迫力が増したまま座ってこっちを見ている。
「食堂で聞いてビックリした。お前の嫁さん大変らしいぞ、だと。何でそれを4階の子供服から聞かなきゃなんねーんだ。自分の妻からではなく」
ぶつぶつと苦情を言っている。鮮魚のアルバイトにまで言われたぞ、と機嫌悪そうに言う。
「あなたに言ったって、好転するわけじゃあないでしょう?」
私の言い方に更にムカついたようだった。
「犯人は判ったのか?自分で対処出来るなら――――」
「やったのは玉置さんよ」
ぴたりと彼が口を閉じた。目を開いている。驚いた顔で止まり、その後で怪訝な顔をした。