女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


「玉置・・・?証拠はあるのか?」

 証拠、だと?今度は私がムカついた。

「しそうな人が他に見当たらないし、彼女とはロッカーで喧嘩の売り買いをしたのよ。それに」

 私も表情を消した。

「制服にかけられていたのは水性絵の具よ。あの人は文具でしょう?」

 彼はひょいと肩をすくめた。瞳の中で揺らいでいた怒りの色は消えている。

「・・・やろうと思ったなら、誰であれ家から絵の具を持ってくるだろう」

「は?」

 何だ?私は体が熱くなったのを感じた。

 彼は、彼女の話題から逃げようとしている?どうして庇う?証拠があるとかないとか―――――――――

 この人らしく、ない。

 私も彼にならって低い声で言う。

「うちの家に絵の具なんかないわよ」

 普通ないだろ。よっぽどでなきゃ。子供がいるとか、自分が絵を書くとかでなきゃ。

 彼は目を瞑ってため息を吐いた。

 私は持っている牛乳のグラスを握り締める。

「証拠はないわ。今は、まだ。だけど必ず見つけるし、私はこのことでかなりの精神的ダメージを受けたのよ」

「・・・・」

 私が怒ったことが伝わったようだった。桑谷さんは椅子に座りなおし、両手をテーブルの上で合わせた。

「それは判る。ネズミの時の君の凹みようは覚えている」

「それに彼女は、ネズミの死骸を嫌そうにもせず普通に持った。今考えたらあの日は私の反応を見たくてロッカーでぐずぐずしていたとしか思えない」


< 62 / 136 >

この作品をシェア

pagetop