女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「玉置・・・?証拠はあるのか?」
証拠、だと?今度は私がムカついた。
「しそうな人が他に見当たらないし、彼女とはロッカーで喧嘩の売り買いをしたのよ。それに」
私も表情を消した。
「制服にかけられていたのは水性絵の具よ。あの人は文具でしょう?」
彼はひょいと肩をすくめた。瞳の中で揺らいでいた怒りの色は消えている。
「・・・やろうと思ったなら、誰であれ家から絵の具を持ってくるだろう」
「は?」
何だ?私は体が熱くなったのを感じた。
彼は、彼女の話題から逃げようとしている?どうして庇う?証拠があるとかないとか―――――――――
この人らしく、ない。
私も彼にならって低い声で言う。
「うちの家に絵の具なんかないわよ」
普通ないだろ。よっぽどでなきゃ。子供がいるとか、自分が絵を書くとかでなきゃ。
彼は目を瞑ってため息を吐いた。
私は持っている牛乳のグラスを握り締める。
「証拠はないわ。今は、まだ。だけど必ず見つけるし、私はこのことでかなりの精神的ダメージを受けたのよ」
「・・・・」
私が怒ったことが伝わったようだった。桑谷さんは椅子に座りなおし、両手をテーブルの上で合わせた。
「それは判る。ネズミの時の君の凹みようは覚えている」
「それに彼女は、ネズミの死骸を嫌そうにもせず普通に持った。今考えたらあの日は私の反応を見たくてロッカーでぐずぐずしていたとしか思えない」